次世代デジタル学習環境(Next Generation Digital Learning Environment)について

EDUCAUSEは脱LMS(学習支援システム)のための,コンポーネットベースのフレームワークとして,次世代デジタル学習環境(NGDLE=Next Generation Digital Learning Environment)を2年前に打ち出した。日本でもAXIESの基調講演やセッションなどでたびたび話題にされている。

NGDLEとはなにか

NGDLEは2015年4月のEDUCAUSEのホワイトペーパー The Next Generation Digital Learning Environment: A Report on Researchで提案された。NGDLEが考えだされた背景は以下のようである。LMSは米国では99%の大学に普及している。一方でLMSはコースや講師中心の学習の管理(administration)向きであった。学習を活性化させるよう学習者中心に考えていかねばならない。そのためにLMSだけを使うのではうまくいかないのではないか? そこで,ダイナミック,相互接続,進化しつづける学習のコミュニティのための環境が必要である。

NGDLEは,連携するITシステムであり,標準規格によって相互接続され,中央集権的ではないが,個別化(パーソナライゼーション)のサポートされ,ユーザーからはクラウドのように見える。

NGDLEのコア機能は,以下のドメインとして実現される。

  1. Interoperability and Integration
  2. Personalization
  3. Analytics, Advising, and Learning Assessment
  4. Collaboration
  5. Accessibility and Universal Design

これらを1つのLMSに実装するのは現実的ではない。LEGOのようにアプリケーションをマッシュアップさせる。NGDLEは「システム」ではなく「環境」である。

以上がNGDLEの元々の構想である。これに対する典型的な反応としては,Tony BatesJon Dronなどがあげられる。“NGDLE"構想の意義は認める。必要悪であるLMSを改善する必要がある。一方,LEGOメタファーが適切か,学習行動にもとづいたモデル化が必要とか,批判的な検討も求める。そして,“NGDLE is an appalling acronym!"。

Unizinに加盟しているミネソタ大学のUniversity Learning Technology Advisors (ULTA) はNGDLEの5つの次元とさまざまなアプリケーションからなるビジョンを提示している(図1)。LMSの選定(CanvasかMoodleか)にNGDLEの観点が用いられている(参考: University of Minnesota Learning Management System (LMS) Review – 2017 Report)。

図1. NGDLEのビジョン https://er.educause.edu/articles/2017/7/the-ngdle-we-are-the-architectsの図をリンク。

わたしがNGDLEを耳にしたのは京大の梶田さんの講演だったと思う。どう思うかといきなり質問を振られて,チャットが鍵になるのではないかと言った覚えがある。その後,EDUCAUSEに行ったAXIESのコアの人たちがNGDLEの概念を展開,実装しようとしていった。法政大の常盤さんはSakaiとLTI連携する方向で実装を進めている。ここでは,NGDLEはさまざまなアプリケーションがLTIでつながるハブ(Digital Learning Platform)のイメージである(図2)。

図2. LTIで統合されたNGDLE 常盤祐司さんの2016年度JSET産学協同セミナー資料(2017年3月25日) より。http:s//www.slideshare.net/ssuser62751b/jset-seminar-20170325ltitokiwa

EDUCAUSE Review:

で,ホワイトペーパーから2年を経て,EDUCAUSE Reviewの特集 “The Next Generation of Digital Learning Environments"である。“of"と"s"がついた。

巻頭論文 The NGDLE: We Are the Architectsで,ホワイトペーパーの著者の一人であるMalcolm BrownはNGDLEの位置づけを以下のように述べている。LMSは学習環境のハブであることが多いかもしれない。しかし,NGDLEはコンポーネント指向で,そのコンポーネントがベンダー製か内製かオープンかみたいなことを決めつけることはない。真のDLEを技術的にいかに構築するかだけではなく,戦略的な方向づけを考えよう。また,みんなで協力しあってインベンティブ&イノベイティブに進めていこう。具体的には4つのエリアがある: 相互接続性,Enterprise IT, CIO, IT組織, ラーニングデータ,“We, the Architects”,である。

“One important aspect of the NGDLE is its Zen-like emptiness"とか言ってのけていてわかるようなわからないような。

次がPhillip LongとJonathan Mottの”The N2GDLE Vision: The “Next” Next Generation Digital Learning Environment“である。

なぜわたしたちはLMSのような「インストラクター・パラダイム」技術を越えて学習について考えねばならないのか? それは端的に言って,すべての個人が生涯にわたる学習者,実践者としての潜在能力を,十全,効果的,効率的に発揮できるようヘルプする社会的ニーズがあるからだ,と著者らは言う。しかし,LMSが使われるのはあいかわらずセメスターベース大学の授業であり,機能は漸進的に追加される。それを乗り越えるための解決の手がかりは集中型のコンピューター時代には実現できなかったITS (intelligent tutorring systems)である。ITSは流行の表現だと"personalization"や"adaptive learning"である。そしてN2GDLE componentsとして図3のように「ソフトウェア・アーキテクチャ」と「ラーニング・アーキテクチャ」からなるフレームワークを提案している。

N2GDLE Components

図3. N2GDLE Components source: https://er.educause.edu/articles/2017/7/the-n2gdle-vision-the-next-next-generation-digital-learning-environment